ドルトムント駅

カバンが無い

ほぼ予定通りにデュッセルドルフ空港に到着。空気がドイツの香りがする。他の人たちについて行って入管をすませ、荷物が出てくるのを待つ間に、ドイツ用SIMを私の端末に挿す。しばらくすると、4Gマークがでる。おお、順調だ。ポケモンGOもちゃんと起動する。社長から預かった2台の端末も問題なさそう。
端末の確認をしていると、いつの間にか、荷物引き取りのターンテーブル周囲にだれもいなくなっていた。でも、私の荷物はまだ出てきていない。そのうち、ベルトコンベアが止まってしまう。係員が残った荷物を回収している。でも、私の荷物は無い。どういうこと!?
「Excuse me, my luggage is not here.」
荷物を整理していた兄ちゃんに聞いてみる。何か言ったがよく聞き取れない。とりあえず、指さされたところに行ってみると、Lost & Foundって書いてある。カウンターで係のおばさんに荷物の引換券を見せると、また何か言われて、紙を一枚渡される。たぶん、このwww.finnair.com/bag/にアクセスしろと言ってるっぽい。いつ荷物が返ってくるのか、ホテルに行けばいいのか、会話では通じてるか不安だったので、携帯のメモに書いて見せる。わからないからこのURLで調べてくれと言われる。少なくとも、今日はもう帰ってこないっぽい。ホテルに届けてくれるのか、聞いてみたけど、何て言ってるのかわからない。
半ば途方にくれながら、社長と経理とのグループチャットで、荷物がなくなったのを報告する。アクションカメラとか、一眼レフも荷物の中にある。しかも、明日は6時にドルトムントに出発だから、それまでに荷物が返ってくるとは思えない。どうしよう。
「着替えとか大丈夫?必要だったら着替え買っていいよ。」
社長ちょっとやさしい。
「コスプレ衣装も荷物の中なんだよね。残念。」
やっぱただのエロおやじだ。

着替えがない

社長から渡されたガイドには、空港の地下に駅があると書いてあったが、ターミナルって書いてある案内板を頼りに歩いていくと、モノレールに乗せられて、普通に地上にある駅に到着。まぁ、このまま中央駅に行けるようなので問題ない。電車に乗り込むと、いきなりでかい犬がいてビビる。犬は苦手ではないが、好きでもない。辛鍋で炒めた犬は好きだ。
ホテルはすぐ駅前だったので、すんなり見つけることができた。予約の紙を見せてチェックインする。エレベーターで上に上がろうとしたら、到着したのに扉が開かない。なんと、手動で扉を開閉するらしい。
部屋は広くはないが、小ぎれいで不便はなさそう。とりあえず、荷物から必要品をだして、としたところで、荷物が無いことを思い出す。化粧水が無い。シャワー入るときに石鹸で洗うしかない。なんという不便。幸いファンデは手持ちのカバンに入っているのですっぴんは免れる。
着替えを買ってもいいと言われたが、どこに行けばいいか分からない。とりあえず駅に行ってみたが、知らない外国人と会話する気力がもう残っていなかったので、夕食にホットドッグを食べてホテルに戻った。
明日は朝6時に出発しないといけないし、今日はもう寝よう。

いざドルトムントへ!

7月5日、朝7時50分、私はポケモンGOフェスの会場の前に居た。晴れた空と公園の緑が鮮やかで、私を祝福してくれているかのようだ。開始時間は8時だが、もうみんなゲートを通って公園に入っていく。私もそれについていく。

中に入ると、大量のポケストップに花びらが舞っている。ポケモンがいっぱいいる。自然とテンションが上がる。あれ?この後何をするんだっけ?ここに辿り着くまで必死で、フェスに着いてから何をすればいいのか詳しく聞いてなかったことに気づく。指南書を取り出して読むと、マスキッパを捕れと書いてある。いや、その前に画面の録画をするのか?混乱してきた。社長にチャットで聞くしかない。
「入口の写真は撮ってくれた?」
忘れていた。一度地下鉄の駅まで戻って、写真を撮る。
「そしたら、スペシャルリサーチってのが出ていると思うのだけど、それを先にやって欲しい。画面の右下に博士のアイコンでてるでしょ?」
確かに、スペシャルリサーチが出ている。そして、指南書にある通り、3人とフレンドになるというのが出ている。2端末のフレンドを削除して、再度フレンド登録してみる。……。何も起こらない。もう一度やってみる。だめだ。いきなり大ピンチ。こうなったら、知らない人とフレンドになるしかない。周りには老若男女いっぱいいるが、やっぱりドイツ人っぽい男が一番多い。でも、一番怖い。ドイツ人の女もそこそこいるが、やっぱり怖い。ここはやっぱりアジア人を探そう。見回すと、中国人っぽい男がきょろきょろしている。もしかしたら、同じくフレンドを探しているのかもしれない。
「Hello. Can you help me with the friend research?」
「おふ、何?フレンド?」
日本人だった。しかも英語話せないっぽい。でも何とかなる。(注:残雪は英語と中国語しか話せません。)
「コレ、フレンド、オナガイシマス。」
「オーケーオーケー。ワカリマシタ。」
なぜお前も片言になるのだ?とツッコミたかったが、それは難易度が高いので諦めた。フレンド登録すると、リサーチが3になってクリアになった。あれ?もしかして、さっき自分の端末で2回やったのもカウントされている?サーバーがおかしかっただけ?
「Okay, Thank you!」
お礼を言うと、男はさっさとどこかに行ってしまった。ありがとう、そしてさようなら。私はフレンドから男を削除した。

ジラーチをゲット!

続くリサーチは、〇〇タイプを捕まえる、だったので、普通にクリア。次は写真を撮るリサーチだ。ところが、捕獲画面で写真を撮っても、クリアにならない。またバグってる?
「それ、表記がちゃんとしてないだけで、捕獲画面の撮影機能じゃなくてGo Snapshotのことだと思うよ。捕まえたポケモンの画面の右上のアイコンからやるやつ。」
社長からの指示通りやってみると、クリアできた。でも、コイルとストライクが意外とでない。社長の端末には捕獲済みのポケモンがいたのでそれを使ったが、私の端末にはいない。残念だけど残雪アカウントは後回しだ。もう電池も少ないし、しかたない。写真を撮り終わると、次のリサーチは最初からクリア済みで、そのままジラーチゲット!
「ゲットするところ、動画とってくれた?」
ごめんなさい、忘れてました。というか、AZレコーダーの使い方まだわかっていません。
「まぁ、しかたない。次が一番の難関だとおもうけど、トレーディングポストってところに行って、交換をやって欲しい。渡してある紙を持ってれば向こうから話しかけてくるはず。」
なにそれ、マジ怖いんですけど。渡された紙を見てみると、絵つきで日本語、英語、ドイツ語でポケモンの名前が書いてある。ほんと、こういう時だけはマメなやつである。
Trading Outpostは公園のほぼ真ん中にあった。紙と鉛筆が用意されていて、みんなそれを掲げてうろうろしている。私も真似て紙を掲げてみる。
『ユクシー!ユクシー!』
いきなり外人の男たちに囲まれる。やばい、襲われる。
「No! No! Wait!」
広場の外に逃げ出した。無理無理無理無理。ただ、社長に相談しても泣き言は聞きたくないとか言われるのは目に見えている。もう一度決死の覚悟でチャレンジするか、諦めてピカチューのヌイグルミショーを見に行くか悩んでいると、社長に似た体系のアジア人のおっさんがやってきた。こいつは使えそうだ!
「Hello! Are you here to trade?」
「オー、ハロー、イエス。」
また日本人だ。でも、コイツは英語が通じそうだ。紙を見せて、交換できるのがあるか聞く。残念ながら、日本から来たらしく、交換したい内容がほぼ被ってるらしい。しかし、それは想定済み。ここからが本番だ。
「Can you take my phone and do the trading for me?」
「オー、ショア。この紙にある交換をしてくればいいのね。」
やったー!おっさんは端末と紙を受け取ると、Trading Outpostに入っていった。おっさんも屈強な男たちに囲まれだし、やがて姿が見えなくなった。それを見届けた私は、ピカチューのヌイグルミショーへと向かうのであった……。

おっさんゲット!

ヌイグルミショーを見終わって、Trading Outpostの前に戻ると、おっさんはまだ交換をやっていた。私がいるのに気づくと、手を振りながら駆け寄ってきた。ずっと立ちっぱなしで足にきてたので、食堂代わりになっているテントに移動した。おっさんが昼飯をおごってくれた。ありがたいが、セクハラだった。私が普通にハンバーガーを選ぶと、おっさんは少し残念そうだった。
「ユクシー、アグノム、エムリット、OK。カラナクシOK。ノーパチリス。」
パチリスはヨーロッパでも相当レアらしい。代わりに、ヘラクロスをオスメス交換したらしい。ヘラクロスも紙に書いてあったので、これでいいのだろう。
おっさんはケンなんとかという名前で、東京からきたらしい。彼もデュッセルドルフに泊まってるらしい。会社はどうしたのか?と聞いたら、トレーダーをやってるので、休みは比較的自由だし、ドイツからでも仕事ができるとのこと。なにそれ、羨ましい。でも、後から調べたら、トレーダーとは股票の投資家のことだった。それなら、今まで働いた会社の人たちもみんなやっていた。そして、仕入れ代金に手をつけて、ある日行くと机の上がきれいさっぱりなくなっていて、存在しなかったことになっていたりするのだ。
「LINE交換しない?あ、中国だからLINEは使ってないのか。wechatは使える?」
私が快くwechatのアドレスを交換すると、おっさんは満足そうに去っていった。渡したのは社長のアドレスだけど。

車が欲しい

※本章はドルトムントと関係ありません。
ここ最近、安徽省もすっかり寒くなり、セーターで出歩くのは厳しくなったので、コートをネットで注文したのだが、届いた商品を見てみると、チェック柄はくすんでいて、おまけに袖も中途半端に短い。まるで、おばさんのちゃんちゃんこみたいだ。返品したいのだが、袖が短いという理由で返品を受け付けてくれるかどうか悩んでいると、従妹から電話がかかってきた。
「これから車屋に行くので、姉さんも一緒にきて。」
「車屋になんて、何しに行くの?」
「それはもちろん、車を受け取りに行くのよ。」

こいつは何を言っているのだ?と思いながらも、とりあえず行ってみることにする。バスに乗って20分くらいの所にある車屋に辿り着いた。
すると、店員がでてきて、従妹を店内に迎え入れる。書類をいくつか書いた後、連れていかれたガレージには、リボンのついたSUVが。
「え、あなた、これどうしたの?」
「買ったのよ。」
「マジで!?」
「マジよ!」
どういうこと!?ただの店員をしていて安月給に文句を毎月言ってる従妹が、なんで車を買える!?
「まぁ、そんなことどうでもいいじゃない。初ドライブに行きましょう!」
従妹のぎこちない運転でドキドキの2時間ドライブは中々スリリングだったが、それより彼女の家の前の駐車場に車が納まって、存在し続けるのが信じられなかった。というか、駐車場の契約もしてたとは!
家に帰るなり、社長にチャットを送る。
「……かくかくしかじかで、私も車が欲しい!」
「そうか、従妹ちゃんすごいね。お金どうしたんだろう?」
「教えてくれなかった。私も欲しい!」
「免許あるの?」
「私も欲しい!」
「……。」
悔しいので、ドイツの日記の代わりにこれを送ります。車が欲しいです。